広報こしがや

1997年09月15日

No.287 大動脈瘤の話 入江 嘉仁

「大動脈溜破裂」、なんと恐ろしい言葉でしょう。それは、患者とその家族にとってだけでなく、心臓外科医にとっても大変なひびきです。このような患者が 運ばれてくる時は、どんな楽しい約束があっても、外科医全員がそれぞれにキャンセルをして、手術の準備を早急に始めなければなりません。そして、救急車が 到着し、家族に十分な説明をする時間もないまま手術室へと急ぐ。なぜなら、手術によって大動脈を修復することが唯一の治療であり、生死が決まります。家族 は、ついさっきまで元気だった一員を手術室に送り出し、 「死ぬかもしれない」の言葉を数時間いや十数時間ものあいだ、思いをめぐらせながら帰還を待つのみとなります。  大動脈は心臓から血液を運ぶ約2センチのパイプです。瘤つまり「こぶ」は、出来る形も場所もさまざまです。胸に出来れば、胸部大動脈瘤、おなかに出来れ ば、腹部大動脈瘤、両方に出来れば、胸腹部大動脈瘤と呼ばれます。通常は高血圧、動脈硬化などの成人病患者がかかりやすいのですが、ふだんから健康だと 思っている人にも見られます。ほとんどは症状がありません。しかし、胸に出来た場合はレントゲン写真1枚で疑いが持てます。おなかに出来た場合は、腹部の 触診でもわかります。  手術は、こぶとなった部分の前後で、人工血管をつなぎ瘤をなくします。特殊な解離性大動脈瘤の場合は瘤が広範囲のため、破裂しやすい場所のみを修復しま す。全身の血液を運ぶ大切なパイプですので、手術する場所によっては、いったん心臓の動きや臓器への血流を止める必要があります。目覚ましい医療の進歩に もかかわらず、手術の際に一部の合併症や生命の危険性が伴うことも事実であります。しかし、瘤が破裂し、出血してからの手術に比べれば、何倍も安全です。  大動脈瘤のすべてが、手術の適応とは限りません。服薬のみで経過観察の状態も少なくありません。健康診断で、大動脈瘤の疑いとされても、すぐに、こぶ だ、破裂するぞと怖がらずに、一度専門医の検査を受けてください。なんの痛みもない検査で、十分な診断ができる時代です。  自分の将来のために、また、愛する家族との急な別れを迎えないためにも、健康診断を受けてください。

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