広報こしがや

2000年03月15日

No.340 痴ほう 鈴木 聡彦

いったん正常に発達した知能が、後天的な脳の器質障害により低下した状態を痴ほうといいます。痴ほうの中核症状としては、ものを覚える記銘・記憶の障 害、場所や時間がわかる見当識の障害や性格の変化が現れ、それに伴う症状として、妄想や抑うつ、特殊な意識障害であるせん妄など多彩な症状が認められるこ ともあります。家族や介護者を実際に悩ませるのは後者の方が多いのです。
病的な痴ほうと健康老人の「物忘れ」との違いは、健康老人の物忘れは体験の一部を忘れるが、痴ほうの記憶障害は体験の全部を忘れること、健康老人の物忘 れは頻度が次第に増えても物忘れにとどまるが、痴ほうの場合は、ものを見てそれがそのものだと解る認知の障害や見当識の障害などに進行すること、健康老人 は物忘れを自覚し心配するが、痴ほう者では自分の欠陥を自覚しないことなどです。
痴ほうの原因としてはさまざまな脳器質性疾患、代謝、内分泌、中毒性障害など多岐にわたります。なお、老年期のうつ病の症状により痴ほうに見えることがありますが、抗うつ薬などにより軽快し、予後良好です。
痴ほうの根本的な治療は困難ですが、痴ほうの中には慢性硬膜下血腫など、原因がわかり、それを除去することですみやかに改善する「治療可能な痴ほう」もあるため、専門医に相談し、早期に診断を確実に行うことが大切です。
最後に痴ほう患者の介護は、できれば親しい家族がいる在宅で行うことが望ましく、介護者は、その人が残っている能力を十分に発揮しながら自分の世界で生 きていくのを支えてあげるという、本人のペースに合わせた受容的な態度で接し、その人格の尊厳を保ち、健常者の社会の常識や要求を押しっけないように配慮 することが大切です。
痴ほうその他の症状が家族の介護能力を超えるときには、医師や市役所の高齢福祉課に相談するとよいでしょう。

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