広報こしがや

2006年03月01日

No.412 糖尿病網膜症 河本眼科医院 村田 博之

糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症のひとつで、進行すると著しい視力低下を引き起こすことがあります。ごく初期には、網膜(フィルムに相当する眼底の薄い膜)の毛細血管瘤りゅうや小さな点状出血として認められます。このころには、視力低下などの症状は、ほとんどありませんが、網膜の腫れや白斑はくはんなどが出現し、さらに進行して硝子体(眼のほとんどをしめる寒天状の透明な組織)に出血したり、牽引けんいん性網膜剥離はくり(眼の中に出現してきた増殖膜などにより網膜がひっぱられて剥はがれてしまう状態)が網膜の中央部におよんでしまうと、著しい視力低下が起こります。
治療としては、まず糖尿病の治療が第一です。内科の先生とよく相談して食事や運動療法、飲み薬や注射などで血糖をコントロールしていただくことが最も大切です。眼科的には、定期的な眼底検査を行い、網膜の出血や腫れの程度に応じた飲み薬の使用や、部分的なレーザー光線による治療が行われる事があります。硝子体への出血の危険性が高くなってきた場合、あるいは出血が起こってしまった場合には、レーザーによる汎はん網膜光凝固(視力に最も大切な中央部を残して、それ以外の網膜をレーザーで凝固する事により硝子体出血の原因となる新生血管の勢いを弱めてしまう方法で、通常は外来で数回に分けて行います。)が必要となる事があります。また進行例では、硝子体手術(眼内の出血や増殖膜を取り除く手術)が行われる事があります。この手術の最近の進歩は、めざましいものがあり、以前なら手術ができなかったようなむずかしい症例でもかなりの成果を認めるようになったのも確かですが、それでもなお大きな視力障害が残ってしまうこともあるのです。
糖尿病網膜症は、初期はもちろんですが中期でも視力低下などの症状があまり出ない事があるという特徴があります。従って、検診や人間ドックなどで糖尿病や眼底出血などが見つかった場合には、早めに内科と眼科を受診されるよう、またすでに糖尿病網膜症と診断された事のある方は、症状が軽いからといって放置せずに内科的な治療と併行して定期的に眼底検査を受けるようお勧めいたします。
網膜症が軽症で糖尿病のコントロールが良好であればほとんど進行せず視力低下をきたさない方、また中等度以上の網膜症でレーザーや手術をうけ、視力や眼底の状態がおちつかれた方もたくさんおられるのですから。

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