No.431 乳がんについて ハラクリニック 原 直
わが国で乳がんと診断される女性は、1年間に4万人にのぼっています。食生活の欧米化にともない年々増加しています。1990年代に胃がんを追い越し今では、女性のがんの中で罹り患率第1位となり、女性のがん死亡率では、肺がんについで第2位となっています。
乳房は、出産時に乳汁を分泌する大切な役割をもつ皮膚の付属器官です。その中には「乳腺にゅうせん」と呼ばれる腺組織と脂肪組織、血管、神経などが存在します。乳がんは、この乳腺を構成している乳管や小葉しょうよう(乳汁を分泌する小さな腺房の集まり)の内側の上皮細胞から発生します。乳がんは、ある程度のしこりがあれば、本人による自己検診でも発見可能です。しこりが2%以下で、リンパ節や全身への転移がないものは、早期乳がんと呼ばれ、極めて予後が良好です。なかでも、がんが乳管の中にとどまっている非浸潤ひしんじゅんがん、非浸潤がんが乳管の開口している乳頭に達して湿疹様病変を呈するパジェット病は、ごく初期のもので、予後が最も良好です。
乳がんの診断と治療法もここ10年の間で、格段に進歩しています。高性能乳房X線撮影(マンモグラフィ)は、触診では診断できないような乳がんや、しこりになる前の石灰化(1mmにも満たない)した微細な乳がんの発見に威力を発揮する検査法で、早期発見に役立っています。2004年に厚生労働省から、「マンモグラフィを原則とした乳がん検診」が推奨され、越谷市の乳がん検診(毎年5月~7月に実施)でも早期発見のため、医師による視触診とともに導入されています。
乳がんの治療法には、手術、放射線照射、化学療法、ホルモン療法などがあります。最近は、手術と他の治療法を組み合わせて、切除範囲を可能な限り小さくする方向で、治療法が検討されています。以前は、胸筋と乳房全部を切除するのが標準でしたが、最近では、胸筋温存乳房切除術や乳房温存術が行われるようになりました。
乳がんは、比較的性質の良いがんの一つであり、早期に発見して適切な治療を受ければ、ほぼ完全に治すことができます。そのためには、自己検診に加えて、乳がん検診を定期的に受けることが大切です。