広報こしがや

No.477 食中毒と病原大腸菌 ひまわりクリニック 朝倉 隆晴

今年の4月、焼き肉チェーン店で腸管出血性病原大腸菌O‐111による集団食中毒が発生し、4名の方が亡くなりました。食中毒は毎年2万数千人から4万数千人ほど報告されています。報告数が多い原因菌は腸炎ビブリオ(約50%)、ブドウ球菌 (約25%)、サルモネラ菌 (約12.5%)ですが、人の命を奪う原因となるような恐ろしい食中毒や、中毒患者数が多い大規模食中毒の原因菌としては病原大腸菌が上位にきます。 大腸菌は健康なヒトの大腸内で生息し、また環境中にも広く分布している微生物です。その名前から腸内細菌の代表のように思われがちですが、ヒトの腸内細菌中で大腸菌の割合は極めて少なく、0.01%以下に過ぎません。ほとんどの大腸菌は無害ですが、一部の大腸菌は感染して下痢などの原因となるため、病原大腸菌と呼ぶようになりました。ヒトの血液型のように大腸菌も血清型により分類されます。抗原は3種類、O抗原、K抗原、H抗原、それらを使って例えばO‐157:H7のように表します。同じ血清型でも病原大腸菌であるとは限らず普通の大腸菌であることもあります。病原因子が検出されて初めて病原大腸菌と決定されます。 病原大腸菌は大きく6種類(①腸管病原性大腸菌②腸管侵入性大腸菌③毒素原性大腸菌④腸管出血性大腸菌⑤腸管付着性大腸菌⑥腸管凝集性大腸菌) に分けられています。日本で食中毒の主な原因となる病原大腸菌は、毒素により水溶性下痢をきたす毒素原性大腸菌(O‐1、O‐18)と小腸粘膜上で増殖し腸炎を起こして下痢となる腸管病原性大腸菌(O‐6、O‐25)であり、これらで病原大腸菌による食中毒の8割を占めます。恐ろしいのは腸管出血性大腸菌(O‐26、O‐111、O‐128、O‐157)です。強い毒素を作り、これが腸管の組織を破壊することで血液の混じった激しい下痢を起こします。腎障害を併発し脳症を合併、重症化すると死に至ることもあります。 大腸菌は熱に弱く75度、1分以上の加熱で死滅するので、家庭での予防策としては食肉の十分な加熱、手洗いが有効です。特に小児、高齢者、抵抗力の弱い人は注意が必要です。下痢、腹痛、血便等の食中毒の症状が認められる場合はすぐに医療機関を受診してください。