No.300 保険診療のしくみ 栗山 隆明
アメリカに住む友人が、当地で最も評判のいい有名な病院で治療を受けました。ところが、彼の言うには「アメリカの医療保険はひどいよ。高い薬は保険が効 かないし、大きな手術以外は手術後苦しんでいても入院させてもらえず帰宅させられる。手術した先生の診察は2週間後で聞きたいことも聞けずに不安だ。対応 も事務的で、最小限の事しかしてくれないから、病気で苦しんでいる自分がいろいろとやらなければならない」。そうです。わが国の医療保険制度は、安価に平 等な医療を受けられる世界で最も優れた保険制度なのです。ただ、この良質な保険制度を利用するにはルールがあります。①医療機関に受診するときは保険証を もっていく。②治療の途中で保険証が変わったら、すぐに医療機関へ申し出る。最低限、この2つは守ってください。
保険診療の仕組みは簡単には次のようになります。①医療保険加入者は、各種保険組合や市町村へ定められた保険料を納付します。社会保険では給料から天引 きされ、国民健康保険では市町村等へ支払います。②各種保険組合や市町村は、加入者へ保険証を交付します。③医療機関を受診するときには、保険証を医療機 関の窓口へ提示します。④医療機関は保険証を確認して診療を行います。⑤患者は治療費のうち自己負担分を医療機関へ支払います。保険の点数制度が複雑に なっており、同一の治療を受けても自己負担金額が変わることがあります。⑥医療機関は、自己負担金を差し引いた残りの治療費を第三者機関を通して保険組合 や市町村へ請求します。
また、次の場合には医療保険は使えません。美容を目的とする場合、日常生活に支障のないもの(支障のない程度のあざ・にきび・わきが等)の場合、予防を目的とする場合(予防接種等)、健康診断(人間ドック等)、正常な妊娠・分べん、業務上または通勤による負傷などです。
最近、わが国の医療保険制度も少しずつ悪い方向へ向かっており、患者さんが気軽に治療を受けにくくなっています。このままでは将来アメリカ型の医療保険制度になってしまいそうです。われわれ医師会では、少しでもいい方向へ向かうように、日夜、努力を重ねています。