NO.621 胸痛にはどんな病気があるの? 埼玉東部循環器病院附属さくらクリニック 李 武志
胸痛はいろいろな病気から起こります。胸部には肺と心臓が収まっていますが、腹部の胃やすい臓などの病気から胸痛が起こることもあります。具体的に胸痛を来す疾患は(1)心臓や血管の病気(狭心症、心筋梗塞、大動脈解離) (2)肺や胸膜の病気(肺炎、胸膜炎、肺がん、気胸、肺塞栓) (3)神経・筋肉の病気(肋骨骨折、肋間神経痛、帯状ほう疹、悪性腫瘍) (4)消化器の病気(逆流性食道炎、胆のう炎、すい炎) (5)心因性によるもの(心臓神経症)があります。アメリカの大学病院の救急外来の統計では、心臓由来の痛みが67%、呼吸器疾患由来の痛みが14.9%、逆流性食道炎による痛みが2.5%、心因性による痛みが6.6%と報告されています。一方、一般病院の外来では心因性の胸痛の患者さんがおよそ70%~80%を占めています。中でも多いのが冠れん縮性狭心症と呼ばれ、冠動脈がけいれんして細くなり胸痛を発症する病気です。思春期の子どもから始まり若い世代にも多く見られます。肉体的および精神的なストレス、飲酒、喫煙などが原因になります。冠れん縮性狭心症は心筋梗塞に発展することはまれです。
胸痛の原因を探るためには、どのような痛みか(刺すような痛みか、鈍い痛みか、圧迫されるような痛みか、締めつけられるような痛みか)、場所はどこか(左胸部か、前胸部か、背部か、首や肩に放散するか)、どのくらい持続するか(瞬間的か、数分か、数時間からそれ以上か)、どのような時に痛むか(動いた時か、安静時か、体位を変えた時か、呼吸との関連があるか)、ほかに症状があるか(呼吸困難、発熱、冷や汗、吐き気、おう吐)などを問診し整理すると、原因が分かることがあります。
胸痛を来す疾患で致死性の高いものとして急性大動脈解離・急性冠症候群・急性肺血栓塞栓症があり、それらは“Killer chest pain”と呼ばれています。心臓超音波検査や冠動脈造影CT、胸部CTなどを行い診断します。診断は循環器専門医であればそれほど難しくはありません。急激に病状が進行することがありますので、早めに受診をしてください。